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物語


 この物語は、私「さて」が不思議な魔法にかけられていた約一年半の物語であり、虚構である。
登場する人物・団体・魔法は架空のものであり、実在のものとは一切関係ない。

 

 

 ― 予告篇

 

 

「機会が育成する植物」

「セミオートで作られるコーヒーアート」

そして

「光る自転車」

 

 さては魅せられる、この場所に。この魔法に。

きらびやかに始まる新しい生活は、一人の仲間の脱退とともに刻一刻と歪みはじめるのであった。

 

 

本編


 この物語は、私「さて」が不思議な魔法にかけられていた約一年半の物語であり、虚構である。
登場する人物・団体・魔法は架空のものであり、実在のものとは一切関係ない。

 

 

 

 


第一部 ― 破滅の序章

 

 

 

 

 その日、ある企業の説明会が学内の施設で行われた。
シアタールームのような場所で私はパイプ椅子に腰を掛けてその説明会が始まるのを待っていた。


「よぉーさてぇー、お前も"アイズ"にはいるんだってなぁ」


 髪の根元だけ黒いプリンのような金髪をした長身の男は半笑いで私の顔を覗き込む。
彼の名は"レイ"。彼もまたこの企業"アイズ"の説明会に参加したものの一人で、私とは旧知の仲であった。

 彼の言うとおり、私は何の気概もなくこの場所に来たわけではなく"アイズ"に少なからず興味を持ってこの場に参加していた。
しかしそれは"アイズ"には私の知っている人間も既に何人か働いているという理由であり
「単純に新しいバイト先としては知り合いが多いほうがいいだろう」程度の気持ちであった。

 講演を聞くまでは。

 

 

 私は感銘を受けた。

 未だかつてこのような衝撃があったであろうか。
当時私が持っていた「町工場の小さな下請け業者」のような彼らのイメージとはかけ離れた、将来的な大成を匂わせる素晴らしい理念を持った会社だった。

「自動的に植物を育てるシステム」
「自転車の車輪に映し出される映像」
「自動生成されるコーヒーアート」

例をあげればキリがないほど、まるで"魔法"のような技術がそこにはあった。

 私は自らの決意を確固たるものとした。「この会社に就こう」と。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 会社に入ってからの日々は順調だった。
新しい仲間、新しい上司、そして新しい挑戦。

 なにもかもが新鮮で、楽しくて、本当に魔法にかかっていたようだった。

 

 


 と思っていたのはつかの間、ある"異変"が起こる。

 

 


 
 
「最近、ミーティングのとき"三木"のやついなくね?」

 そう問いかけるのは、坊主の修行僧『オジ』。

「アイツここ数週間ずっとミーティングの前日になると体調悪くなるって言ってたぞ」

 それに答えるのは、デスクワーカーとは思えない筋肉を持った『サキ』

「そんなことわけあるか!?」

 最後に笑ったのはレイだった。


 "三木"という男は、自分より前からこの職場にいたが学年が一緒だったため、
よく帰りにラーメン屋『ブルマ』へ一緒に行った仲の一人である。
 その場で"三木"の心配をしていた彼らもまたそのうちの一人である。


 全ての歪はこの出来事から始まる。
いや、歪自体は最初からあったのかもしれない。誰も抑えることのできない混沌が。

 

 

 


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― ブー ブー

 

 真っ暗な部屋にSlackの通知が鳴り響く。

 

『三木くんから連絡があって体調不良のため今日のMTGは休むそうです。』

 

― バキッ

 

 暗闇の中、通知を一瞬だけ確認した三木はスマホを壁に投げ捨て破壊する。

 

「やらなきゃ…やられる………」

 

 彼は大量の爪楊枝ポケットに忍ばし、置き手紙を残して家を出る。

 


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 翌週。


ミーティング前の会社は騒然としていた。

 

 

「おまえさァ、"うちを辞める"ってどういうことか分かってる?
 オレは"共有"したハズだぜ?」

 

 

 不機嫌さを露わにしながらふさふさの髪を荒立てて流暢に喋るメタボ体型の男。
その男こそがこの会社の社長であり、この企業(カオス)を統べる者である。

 そして、それに物怖じせずに対面する大柄の男こそが三木であった。

 

 

「あぁ、オレは分かってる…。
 だから辞める。オレはアンタが共有してないことまで"知っちまった"からな…」


 意味ありげに話す三木に社長は一瞬表情を曇らせる。
その後、社長椅子から立ち上がり三木のみを手招いて応接前へと彼を誘う。


…ざわざわ


 これから何が起こるのか察した社員は目を背け、
何も知らないアルバイト生はヒソヒソと憶測や事情を話した。

 

 


― 応接室

 

 


「"知っちまった"か…

 なら話は早い。お前も【覚醒者(アインズ・ウェーカー)】というワケか」


「おかしいと思っていたさ。
 この会社はあまりにも多すぎる。

 "異能力"【I'Z(アイズ)】の所有者が……!!!
 
 社員は勿論のこと、バイト生も次々に【I'Z(アイズ)】に覚醒していきやがる。
 そのことに怪しさを感じ、この会社のサーバに探りを入れてみたらどんどんドス黒い計画が湧いてきやがる…!

 お前の計画通りにはさせない!!!
 【技術的特異点(シンギュラリティ)】をお前の手で起こさせるようなことは絶対にしない!!!」

 


 三木は社長に指をつきつけて、宣言する。

しばらく場に静寂が包まれた後、社長はおもむろに口を開く。


「タロー…か。

 たしか、アイツはサーバの権限を持っていたな。そして、お前とたいそう仲が良かったそうじゃん。
 アイツの【I'Z(アイズ)】も捨てがたいが敵に回るというのならいずれ始末するしかないなぁ」


「待て!!タローは関係な…」


「お前がいくら取り繕ったところで無駄なんだよ。
 そこまで事情を知っているってことは俺の【I'Z(アイズ)】も知ってるだろう?」


「……!!!」

 

 三木は眼光を光らせすぐさま戦闘態勢に入る。

 

「右ポケットに入っているのは、爪楊枝。
 そしてその先端に塗ってあるのは毒。

 なるほど、さらに不意を突くために自らの【I'Z(アイズ)】を応用し…」


「うるせェェエエエ!!」

 

 三木はポケットから取り出した爪楊枝をメリケンサックのごとく指と指の間に挟み社長目掛けて特攻する。

 

【SSS(エス・サンドバッグ・システム)】

 

「…!?」


 突如、三木の攻撃から社長を守るようにサンドバッグが出現する。


「クッフッフ、ブラボー!
 【SSS(エス・サンドバッグ・システム)】は俺への攻撃を自動で引き受けてくれる最高のIoTだ…!
 そして、【SSS】が受けたダメージはその開発者へと向かう!!!」

「【SSS】の開発者!?じゃあこれを攻撃したら…」

「そう、お前の大親友・タロー君が攻撃を受けるってことだよ。」

「クッ…なんてことを……!!!」

 


 サンドバッグを前に、立ち止まることを余儀なくされた三木。
社長と個室に二人きりになるまでは良かった。
彼は社長の【I'Z】を知っていた。知っていたからこそ一対一なら勝てると踏んで闘いに挑んだ。


「チクショウ……、結局、俺は何も出来ず負けるのかよ……クソ!!!!」

「クッフッフッフッフ、今から【へー素敵な社長さんですね】のハッシュタグでつぶやけば許してやってもいいぞ」


 社長は笑いながら見せつけるようにiPhoneの画面をチラつかせる。

 その一瞬のスキを三木は見逃さなかった。


 ― 【無限飲食(ハングリージョーカー) ― 逆流(リバース)】!!
 

 それが三木の【I'Z】。
 どんなものでもどんな量でも口に含むことができる。

 彼はそれを応用し"口の中に"大量の爪楊枝を仕込み、それを社長目掛けて吐き出した!!!

 


「………!!!!」

 

 

 サンドバッグをくぐり抜け、毒入り爪楊枝は社長の顔面に命中する。
その衝撃で後方に吹き飛ばされ社長は仰向けに倒れる。

 


「や…やったか……… オェっ」

 


 三木は【逆流(リバース)】の反動で嗚咽していた。


― ぱちぱちぱちぱち


 どこからともなく拍手の音が聞こえる。

 仲間からの喝采か。


 
 否。

 

「クッフッフ、【ロボ寺】を倒すとはお前やるじゃん。
 それだけに惜しいな。 今ここで"殺す"のは 」

「そんな…全て"分かっていた"ってのか…!!!」

「お前こそ"分かっていた"はずだろう?


 俺の【I'Z】、『あらゆる情報を共有する能力』

 【共有強要(シェア・ザ・ワールド)】のことを。

 お前の考えも策略も全て"共有"されていたんだよ。ハッハッハ!!!

 ちなみに、本物の俺は【シェアサイクル】を普及するためにシリコンバレーに行ってるからな!」

 


― ガチャ

 


 応接室の鍵を入ってきたのは、白いシャツを身に着けた清楚な雰囲気を醸し出す青年ケイだった。

 

「それでは執行の続きは僕がやりますね。」

「ケ…ケイさん!!!」

 

― ゴゴゴゴゴ

 

 ケイは自身の背後に野太い大型犬用の首輪をズルズルと引きずりながらニヤリと笑みを浮かべる。

 


「僕の【I'Z】【調教(スレイヴス)】で記憶が無くなるまで
 "調教"してあげるよ…ッ!!!」

 

 

「待てッ…!!!調教する前に一つだけ言わせてくれ!!」


 三木は自らの敗北を悟り、立膝をついて叫ぶ。


「例え俺を調教しようとも絶対に変わらねェ事実がある…!!!
 俺がここを辞めたい最大の理由……!!

 それは、『社長の下で働きたくない』からだ!!!!」 ドッ


「……ッ!!!!」


「そこまでです」

 


― ギュイィン!!

 


 ケイは首輪型の【幽波紋(スタンド)】を三木の首にかける。

 

「僕の【調教(スレイヴス)】の能力は知っているね。
 "首輪をはめた対象を絶対服従させる"。
 それが僕の【I'Z】。

 君も僕たちの計画に同調してくれればこんなことしなくて住んだのに…
 【技術的特異点(シンギュラリティ)計画】に…」


「あわッ」

 

 三木は首輪をかけられ意識を失い、そのまま夜の会津へ姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 


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「三木のやつ辞めたってマジ?」


 私は驚愕した。
確かにしばらくミーティングを休む機会も多かったし、かと思えば先日のミーティングでは不穏な様子であった。

だが、あの不屈の心を持った彼が"何を持って辞めた"のか。
それだけが私の疑問に残った。

 

 

 

 

 

 次の出来事が起こるまで。

 

 

 

 

 

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「だから、ちがうんですよ!!!!!」

「まぁまぁ落ち着けって」


 オフィスに鳴り響く怒号とそれをなだめる社長。


「いや、落ち着けじゃなくてですね!!」

 

 怒号の正体は若くして頭皮が薄くなってしまった男ナオキ。

それを見て、その妻ユウは険しい表情をしていた。

 

「ッ!ここで話し合うのもなんですし応接室に行きましょう!!!」

 

― ガチャ

 

 社長とナオキは仁王立ちで対面する。

 

「ふぅ…フッフッフ……
 ここに一対一で連れ込んだということはお前も闘る気ってこと?」
 

 

― ザッ!

 

 社長の前にサンドバッグが出現する。

 

「あぁ、そのとおりだ。
 そして勿論勝算もある!!!!」

「そんな髪で何を言ってもギャグに聞こえるぞ?」

「そのことに関しては逆に感謝しなくちゃあな」

 

 ナオキは自らの髪を掴みちぎる。

 

「俺はこの会社に入ってからストレスからか明らかに脱毛量が増え、そしてハゲた。

 そのことを俺が自覚したとき俺は【I'Z】に目覚めた。
 そして、俺はこの力をストレスの原因であるお前を屠るために使うと誓った!!!」

 

― 【脱毛ハーブ(ストレス・レス)】

 

 散っていった髪の毛がそれぞれ独立して意思を持つかのように蠢き出す。

 


「俺たちの血と涙の働きを

 三千万のテスラを買った恨み!!!!いざ晴らさん!!!!!」

 

「そんな凄惨な髪で何ができるんだ?」

 

「聞いてみろよ、お前の【共有強要(シェア・ザ・ワールド)】で…!」

「フッ、無論そんなこと分かって…」

 

 

 

「【シェア・ザ・ワ…】」

 

 

― キィィィイイン!!

 


「なっ、ナオキの情報が読み取れないッ…!?」

「俺はお前のほぼ全知にも思えるその力を抑えるためにその能力の限界を調べ上げた!!
 そして、俺はあることをきっかけに気付いた!!」

 

 

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とある大学の事務にて

「ねぇ、Facebookやってんのー?」

「やってるんだけどさぁ、私あそこの"社長"がFacebookにいるから嫌なんだよね~」

「私ブロックしてるから分からないよ~」

「私もしてるんだけどたまにシェアが回ってきて~~」


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「お前はこの流れを知っているか?知らないだろう?
 お前は不快なことがあるとすぐ周りに愚痴るよなぁ、これもその範疇であるがお前はこのことを知らなかった!!」

 

「ぐ…!!!」

 

「そこで俺はある仮説をたてた!!」

 

『【共有強要(シェア・ザ・ワールド)】はあらゆる情報を任意の対象に共有する能力ではない。

 "自分と繋がりのある人物の情報を其の中で共有する能力"である』


『"繋がりのある"の定義は"SNSでフォローしていること"である。』

 

「そして、その仮設はあたっていた!
 現に今俺はお前のFacebookをブロックしている!!

 故にお前は俺の保有する情報を思考も共有することが出来ない!!!!!!」

 

 ナオキの放つ散り散りとなった髪は不規則な軌道を描きながらサンドバックを避けつつ社長に近づく。

 

(奴の【I'Z】の正体は知らないが、あの髪に触れるのはとにかくまずい…!!)

 

 社長は必死に避けようとするが自らの腹が邪魔で上手く避けられず髪に触れてしまう。

 

「終わりだ…!

 ストレスで散った髪を対象にぶつけたとき、
 対象に自分の蓄積してきたストレスを押し付ける!!!!

 それが俺の【I'Z】

 … 【脱毛ハーブ(ストレス・レス)】 ― !! 」

 

 


― ハゲの怒りが社長をうつ!!!