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物語

 失った髪の代償はあまりに大きすぎた。

ナオキの放った【脱毛ハーブ(ストレス・レス)】は徐々に社長の肉体を蝕んでく。

己の肉体の変化に気づいた社長は早急に"計画"を完遂すべく【γ化Project】を本格始動しケイに計画の要所を託す。

 

しかし、あまりに早すぎる計画。乱雑な仕様。

各々の傍若無人に振る舞いに耐えかねたケイは【一掃】を開始するッ―!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

以下本編

 

 

 

 

 

 

 


 この物語は、私「さて」が不思議な魔法にかけられていた約一年半の物語であり、虚構である。
登場する人物・団体・魔法は架空のものであり、実在のものとは一切関係ない。

 

 

 

 

 第二部 ー 囚(とらわれる)

 

 

 

 ー ぱらぱらぱら

 

 

 

 ナオキの髪は社長の脳天を突き刺す。

 

「がっ………… なんてね!!」

「…………!?」

 

 

ードドドド

 

 

 突如ナオキの前に複数の社長が現れる。

 

 

「こ……これは!?」

「フッフッフ、よくやった『ナミ』」

 

 

 複数人の社長は不気味に笑いながら自分の妻の名を呼ぶ。

すると、どこからともなく艶やかな煮玉子…否…『ナミ』が姿を現す。

 

 

 

「どうかしら、私の【I’Z】

 ー 【煮玉子の尻(ヒップ・ホップ・ブラックサンダー)】」

 

 

「き……きさまらあああああ!!」

 

 ナオキはハツラツと能天気な笑みを浮かべるナミを見て怒りのあまり髪が逆立ちすぎて四散する。

 

「私の【I’Z】は”類似物”を”誤認識” させる。

 今は、この部屋にあるあらゆる社長の似顔絵や写真を全て”社長本人”と誤認識させているわ

 よろしく」

 

「いっつもFacebookしかしてねぇババアがぁ!!高給とりやがって!!!

 テメェも潰す!!」

 

 

 ナオキは四散した髪の毛を操作しナミに直接攻撃をしかける。

ナミはそれを避けることなく為す術なく攻撃を食らう。

 

 が、しかし

 

 

「フフフ、残念。それは『ただの煮玉子』よ。

 私の力で煮玉子と『私』を誤認識させたってこと

 本物の私はこの部屋にはいないわ~」

 

「そうか…福利厚生のフリーフルーツ制度と豪語しているわりには

 オフィスに置いてあるフルーツの半分がレプリカなのも…

 

 お前が本物のフルーツとレプリカのフルーツを誤認識させていたのか…!!」

 

「ふふっ、Facebook以外にもいろいろしていて忙しいのよっ」

 

「ふぉっふぉっ、俺の事忘れてない?」

 

 ー 【共有拳(シェア・パンチ)】

 

 ナミに気を取られていたナオキに社長の拳がクリーンヒットする。

 

「ぐああ!!」

 

 血反吐を吐きながら、応接室の床に膝をつくナオキ。

それを囲う、分身した社長と社長夫人。ナオキにとってこの状況は絶望的かと思えた。

 

 が、しかし

 

 

「へっ、絶望的で結構。…こんな”ストレス”を感じる場面…そんな無いぜ…

 俺の【脱毛ハーブ(ストレス・レス)】はストレスを感じていれば感じているほど強くなる!!

 

 どれが本物かわからないのならっ!!

 俺の髪を全て使って貴様ら全員倒すまでだああああ!!!!!!」

 

 ナオキの叫びながら自分の髪を四方八方に爆散させる。

 

 ― ブスブスブスブス!!

 

 髪は部屋中のありとあらゆるものを貫く。無論その場にいた社長本人も。

 

 

「ぐっっっ!!!ま…まずいっっっ!!!!」

 

 

ー ぐっしゃあああ!!!

 

 

 全ての攻撃が終わったあと、立っていたのは社長だった。

 

「ふっ…ふっふっ…はーはっはっはっはっはっは!!!

 伊達に20年ベンチャーやってねぇんだよぉ!!俺の精神耐性を舐めるなよ!!」

 

 

「こ…ここ…まで………か…」

 

 全ての力(かみ)を使い果たし地面に這いつくばったナオキはポケットの中からあるものを取り出す。

 

「お前にもう動く力は残っていないだろう…トドメをさして…」

 

ー ピカッ

 

「悪いな、俺はまだ死ぬわけにはいかないんでな。

 こことは違う場所(ホワイト企業)に逃げるとするぜ…」

 

ー ゴクリ

 

 ナオキが取り出したのはミルクだった。

それを飲み干すとナオキは光の粒子に変換されてその場をベイルアウトした。

 

「チッ… 自分の母乳を飲んだ対象を母のもとへ還すユウの【I’Z】

 【母なる大乳(ミルキーウェイ)】か…!!

 

 … がはっ!!」

 

 

 激闘の末、社長は血反吐を吐き出す。

その後、ナオキとユウは会社を退き二度と彼の前に姿を現すことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから数ヶ月が経った。

 

「ごはっ」

「大丈夫?あっ、スズキくん。コーヒーついでちょうだい。お願い。」

 

 あの戦いを堺に社長の体調は日に日に悪化していた。

【脱毛ハーブ(ストレス・レス)】遅延発動型の攻撃だったのだ。

 

「おい、ケイ……

 もう待っている暇はない…【γ化計画】を発令しろ……」

「はっ」

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 私はしばらくして例の計画へ参入することになった。

同じ計画に同僚のレイ、そしてサキも入ることになった。

 

 人工知能機械学習、そしてブロックチェーンといった今をときめく技術の結晶となる計画らしい。

私は楽しみで夜も眠れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

― と、思っていたが違った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一ヶ月後。

 

 

 

 

 

 

 

「この計画は、一度解散します。」

 

 γ化計画のミーティングの最中だった。

計画に携わっていた全員が驚きを隠せなかった。

 

 確かに、計画の進行は遅れておりこのままでは到底終わりの見えない状況ではあった。

だがしかし、唐突の解散宣言。それはひとえに『一掃』を意味していた。

 

 

― ブチッ

 

 

「へっ、これが『シンプソンのパラドックス』ってわけか…

 やめてやらぁこんな会社ァ!!!」

 

 レイはそう言って、オフィスを去っていった。

ほどなくして、サキも自分の『意思』を固めて社長のもとへ向かう。

 

 

 私の直感がこのとき彼らに良くないことが起こることを感じた。

だが、それを伝える前に私にケイが語りかける。

 

 

「君の【I’Z】は、【必要】だ」

 

 

 【I’Z(アイズ)】。

 私はこの頃にはもう”それ”が何かということに薄々気づいていた。

 

 この会社にいる人間が全員、所謂【能力者】であることに気づいていた。

 そして、ケイのこの発言で彼らがもつ【異能力】の正体が【I’Z】と呼ばれるものであることを私は知った。

 そして、そのときにはもう自分の【I’Z】についても気づいていたのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

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― ピーンポーン

 

夜10時もまわった頃、レイの家にインターホンの音が響く。

 

「ッチ、LOLの最中に誰だァ?」

 

レイは少々苛つきながら部屋のドアを強く開けるとそこには白いシャツを来た清楚な雰囲気の男が立っていた。

 

「レイくん。君を消しに来ました」

「ケイィィィぃ!!!!!」

 

 

― ばっふ!

 

 

 レイは本能的に命の危機を感じ咄嗟に近くの土鍋にあった大量の吸い殻を撒き散らし煙を発生させる。

 

―【分煙できない副流煙(クリミナル・ジェーティ) ver零(バージョン・レイ)】

 

 

「チッ、視界を潰されたか…だがこんなものッ!!」

 

 ケイは手に持った巨大な鎖で繋がれた首輪を高速で回転し煙を除去する。

 

「やられる前にッ…!やるッ…!!」

 

 レイはその隙をついてケイのもとへ駆け寄り拳を振るう。…が

 

「う…うごけな…」

「フッ、近づいたのは迂闊だったね。

 その距離はもう僕の【調教(スレイヴス)】の射程範囲だ」

 

 レイの首にはケイが持つ首輪がしっかりとハマっていた。

 

「社長の動きはあまりにも悠長すぎる…

 もっとアジャイルに人を入れ替えていかないと。

 君は結局最後まで、【I’Z】に覚醒できなかったね。でも秘密を知って辞めた人を生かすわけにはいかないよね」

「くっ…」

「首輪でつながれた時点でもう勝敗は決した。

 あとは僕に絶対服従…さぁ『死…』」

 

 しばし、沈黙が流れる。

 

「どうしたァ?俺に命令してみろよ。

 絶対服従なんだろう?だったらその力で俺に『死ね』と命令してみろよォ!!!」

 

「な…なぜ言えない…!?!?」

 

「お前はさっき、『首輪でつながれた時点で勝敗は決した。』と言ったな。

 そのとおりだ。お前が攻撃を仕掛けたとき、俺も攻撃を仕掛けていた!!

 よく見やがれ!!これが俺の【I’Z】…!!!

 

 ― 【強制共生者(パラサイト・ロープ)】!!

 

 ケイの手首とレイの手首が紐で結ばれていた。

 

「レイィィ!!いつの間に【I’Z】に覚醒したァ!?

 そして、なんだこれは!?僕の【調教】は一度決まれば絶対服従の能力!!何故君に命令できない!!」

 

「それが俺の【強制共生者(パラサイト・ロープ)】の能力さ。

 紐で繋がれた相手は俺と共生しなければならない!!俺を生かすため衣食住を提供し支えなければならない!!!」

 

「クッ…!つまりこの状況…君は僕に手を出せないし僕は君に手を出せない…!!」

 

「そう、八方塞がりってわけだ。

 見たところ、お前の【調教】はこの首輪がないと発動できない。そして首輪は一つしか操作できない。

 互いに互いを攻撃出来ない以上、先に仲間が駆けつけてきたほうが勝ちってワケだ…」

「仲間…だと?」

「あぁ、ウチのサキが”や”ってくれるさ…」

 

 

― ドドドドド

 

 

 

 

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 オフィス。

 

 社長の前に一人の筋骨隆々の男が倒れ込んでいた。

 

 

「ふぉっふぉっふぉ、意気揚々と啖呵を切ったわりにはその程度か…『サキ』」

 

「がはっ」

(【共有強要(シェア・ザ・ワールド)】…話には聞いていたが

 敵が自分の全てを察知しているというのはこれほどまでに強力か……!)

 

 サキが身体を起こそうとすると、ロボットアームが自動で彼の四肢を押さえつける。

 

「そいつは、人工知能を搭載したロボットアーム。

 会社の新しい【宣伝玩具(おもちゃ)】だ…面白いだろぉ?これに10万もかけたんぞぉ?」

 

 社長はすでにサキの能力を共有しているため、彼を警戒しながら背後に回り込む。

 

「ニッ… かかったな」

「……!?」

 

 ― ブー!!!

 

 

「…こ…これは、放屁!?!?!?」

 

「お前、俺についての情報…正しくシェア…できてるか?」

「……ま…まさか…貴様の【I’Z】は筋肉量を操る

 【筋肉達磨(マッスル・ギャップ)】ではないのか…?」

 

「そう、お前の情報を共有する【I’Z】には弱点がある。

 それは共有した情報の真偽が分からないということ!!!

 そこで、俺は slack に俺の嘘の情報を垂れ流した!!!」

 

「ぐ……!!

 一対多の時に力を発揮する【多勢に不正(クオリティ・オーバー・クオンティティ)】といったものも

 俺と完全に一対一の状況を作り出すための嘘だというのか!!!

 

 な……突然腹が痛くッ……!!!」ぎゅるるる

 

 

「そうだ…!!そして、今お前の身体に起きてる異変こそが俺の真の【I’Z】

 自分の放屁を嗅いだ相手を強烈な腹痛を呼び起こす

 【付苦痛(イタタタ=タタ)】―!!!」

 

 

「ぐあああああああああああああ!!!」

 

 

 社長は悶えはじめトイレに向かおうと扉に手を差しかける。

 

 

「逃さん!!」

 

 

 ― バキッ!

 

 

 サキは自身の手足を急激に膨らませて拘束していたロボットアームを吹き飛ばす。

 

「…!?その力は【筋肉達磨(マッスル・ギャップ)】!?

 その【I’Z】は本当だったのか……!?」

 

「あぁ、俺が嘘情報を流したという事実によって、お前は一度でも自分の能力による情報を疑ってしまった。

 故にお前は最初から警戒していたこの【筋肉達磨】すらも今予測できない!!

 くらえ……!!」

 

 サキの右手に筋肉が集約され肥大化しまるで、巨大なだるまのような形を筋肉で作り出す。

 

「 ― 【達磨堕とし(ドロップ・ミート)】 !!! 」

 

 腹痛に苦しむ社長にその攻撃を避ける余裕など無かった。

そして、超質量の肉塊によるスタンプ攻撃。人を木っ端微塵にするには十分すぎる威力である。

 

 

 

 

 

 

― しーん

 

 

 

 

 

 

「は…はは………、まに……あった………か……‥『ミサ』よ」

 

 

 サキの突如目の前に現れた『壁』により無効化された。

コツコツと音を立てながら、”それ”を出現させた本人はサキに歩み寄る。

 

 

「そ……そんな……ミサ…さん…

 あなたは味方かと………」

 

「ごめんなさい。私実は、この度同じ社員のコウさんと結婚することになったの

 新しい生活を支えるためにもこの会社を潰されるワケにはいかないの

 

 だから、死んで」

 

 

「……ス……ビッチ‥があぁぁぁぁぁあl!!!!」

 

 

 

― 【無挟の壁(ザ・ウォール)】

 

 

 

 

 

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 ― ガチャ

 

 硬直状態だった、レイとケイのもとに一人の訪問者が現れる。

 

「サキ…!!来てくれたか!!」

「ニッ」

 

 そこに現れたのは『アイズ』の社員。トモコだった。

 

「私の【I’Z】は、ポータル付近の情報を観察把握できる

 【婚活エージェント(GPS・ゼクシィ)】

 

 ケイくんの様子を観察していたら、ふふっ、こんなことになっていたとはね」

 

 

「レイくん。残念ながら君の仲間は来ないようだ。

 チェックメイトだよ」

 

「そ…そんな……!!!」

 

 

 トモコはメガネをクイッとあげてレイに近づくとそのか細い糸を

 

 断ち切った。

 

 

 

 

 

 

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 ― つー つー つー

 

 

 

「サキにレイ…二人とも…まだ連絡つかないのか…」

 

『ぷぷぷーぷりぷりっぷりー!!』

 ガチャ!

 

 

「もしもし?あっはい…分かりました。よしなにやっておきます」

 ガチャ

 

 

「はぁ」

 

 

 坊主の男、『オジ』は電話を切ると一度大きくため息をついたあと呟く。

 

 

 

「 終わらせるか 」

 

 

 

― 怒りか、正義か、それとも…

  次々と消えていく仲間を後に終わりの僧侶が立ち上がる