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物語

 それは人類の敵か味方か

 

 【技術的特異点(シンギュラリティ)】が起こるとき

 人工知能は何を思い、何を考え、何をする?

 

 

 進化の果てに未来永劫の栄華があるとしてもそれは本当にあなたの幸せですか?

 

 

 始まりと終わりは同じところで帰結する。

 

 

 進化の可能性に一つの答えを指し示さなければならないとき、私は大きな決断を下す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 
以下本編

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この物語は、私「さて」が不思議な魔法にかけられていた約一年半の物語であり、虚構である。
登場する人物・団体・魔法は架空のものであり、実在のものとは一切関係ない。

 

 

 

 


第四部 - バイバイ・アインズワールド

 

 

 

 

 

 ― ブーブブっ

 

 


「うちきて」

 


 私のもとに来たのはタローからのLINEだった。
MTGにもこなくなり、オジ同様『アイズ』の手によって消されたと思っていた俺にとって
そのLINEメッセージはまさに一筋の希望そのものだった。

 

 

 

「タロー!!無事だったか!!!」

「ま、物理的には……ね」

 

 


 タローの家は前回来たとき同様セキュアなシステムで構築されていたが
生命維持装置である人並の大きさの試験管が一つ増えていた。

 

 


「オジも……」

「あぁ、でもこいつの攻撃は確実に社長に
 いやあの”会社”そのものにダメージを与えている!」

「なら、やはり奴らを潰すの今が絶好のチャンスってワケか…」


「”絶好のチャンス”…か…
 ものはいいようだな」

 

 タローは笑いながらラップトップのディスプレイを見せてくる。

 

「見ろよ、俺はもうあの会社のSlackにログインすることすら許されねェ…
 辞めさせられた…んだよ……俺の知らない間に!!!」

「知らない間に辞めさせられただと!?
 そんなこと許されるのか!?アルバイトに何も言わずに勝手に解雇するなんて…それって不当解雇じゃ」

「法の話はよくわからねェが…
 許せねぇ…!散々利用して!!散々俺たちには『辞める前に俺にいえ』だとか言っていたくせに!!

 辞めさせるのは勝手だってのか!!!」

 

 タローは怒りに身を震わせながら拳を握る。
そして、さらにもう一つSlackのチャンネルを見せてくる。

 


「これは、Shareチャンネル…
 俺たちが使っているSlackで社長の予定を自動で流すbotだ…

 これによるとあと15分後に急にとある予定が入っていることが分かる」

「ある予定…だと?」

「【技術的特異点(シンギュラリティ)】計画の発動」

「な…!!」

「俺は辞めたせいでやつらの行動を読み取る権限を失った。
 故に、まさか計画が既にここまで進行していたかなんて分からなかったんだ!!」

「シンギュラリティ…話には何度も聞いた!!
 人工知能が人類の知的レベルを超える瞬間…!
 そこから先の未来は現在の我々では予測不可能だと言われるもの!!

 だがしかし、それはまだだいぶ未来の話のはず…!!!」


「お前は”見た”はずだ、あの狂気のプレゼンテーションを…」


「ま…まさか!!」


「【人類が造り出した大いなる福音(じんこうちのう)】HIGUCHI
 奴らはもう人工知能にプレゼンをさせる試験を成功させていたのだ!!!」

 

 

 タローは表情を暗くしさらなる絶望的情報を私に伝える。

 

 

「【シンギュラリティ】計画が行われるのは
 ”アルツ磐梯”

 ここからはまともにいったら30分はかかる…
 ハッキリいってもう間に合わない…」

「だからって、”また”何もせずにいろってのか!!
 それに今度は俺たちだけの問題じゃない!!

 万が一、奴らが間違った人工知能を造り上げてしまったら
 この世界そのものすら滅ぼす危険があるんだぞ!!!」


「でも、どうすればいいんだ!!!
 お前のポンコツ軽自動車で間に合うってのか!?

 そして、例え俺たちが向かったとして…!!!」


「そ…それは‥…」

 

 


― ガシャン!!!!!

 

 

「アルツまで15分だって??」

 


 タローの家のドアが勢い良く開いたと思うと
一人の男が車の鍵をぐるぐるまわしながらニヒルに呟く。

 

 

「 俺の車なら その時間で 『 郡山 』 まで行けるぜ 」

 

 


「「 しょ・・ショウ!!!!!!! 」」

 

 

 

「 さぁ、シートベルトを締めなッー!!!!! 」

 

 

 私達は流れるようにショウの車に乗り込む。

 

 

 

 

― 【法外速度(オーバードライブ)】!!!!

 

 

 

 

 

 


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― キュイン!!

 

 

 

 


「間に合ったッ!!!」

 

 

 


 私たちはアルツにたどり着くと車から飛び降りて”目的の場所”へと無かう。

 

 


「来て…くれた‥…か……」

 

 


 そこに立っていたのは、腹を抱えたコウだった。

 

 


「こ…コウさん!」

「もう…たくさん……だ……
 あとは君たちの手で……終わらせて…………くれ」

 

― バタッ

 

 コウはその場で倒れ込み二度と立ち上がることはなかった。

 


「コウさんの首に…!首輪をつけた後が!!!」

 

 タローはコウの首を触り確認する。

 


「そうか。やっぱりケイさんは向こう側についていたんだな…くそぅ…」

 

 ショウはショックを受け少し顔を俯けるが
すぐに、自分のしなければならないことを思い出し再び前へ進む。

 

 


― ガタッ

 

 

 部屋のドアを開けると目の前には強面の男が一人立っていた。

 

 


「この先に行くには、俺を倒してからだ」

 

 

「最終決戦前のテンプレのような現れ方をしやがって…!!!
 セイジン!!!!!」

 

 

 タローは目の前の男『セイジン』と対峙して拳を握る。

 


「ショウ、さて…
 コイツは俺が相手する。

 お前たちは先にいけ!!」


「いいのか、確かお前の【I’Z】は家の中でしか使えないはず…!」

「お前たちには言ってなかった奥の手がまだ俺にはあるッ…!!
 それに、アイツは三木の時給を200円にして俺の時給にいたっては20円にした張本人だ…!!

 俺がケリをつける!!!」

 

 


 私はそこに普段みることのないようなタローの確固たる意思を感じ
振り返ることなく先に進む。

 

 

 

「たろーくん。
 君には期待していたんだけどネットワークの管理者権限を悪用しちゃあいけないよ…

 折角今までの会社での働きに免じて”粛清”対象にしないであげようとおもったんだけどね。

 ここまできてしまったのならしょうがない!!
 君の”脆弱性”を隅から隅まで解析してあげるよ」


「へっ、お前なんかさっさとIBMにでもなんでも逝きやがれ!!」

 

 

 

 

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 私とショウが辿り着いた先には社長とケイが並んで立っていた。
そして、その間に椅子に座って明後日の方向を見つめた人工知能―HIGUCHIがあった。

 

 

 

 

「ふふっ、よくここまで辿り着いてくれました。
 コウさんの最後の働きのおかげですね…

 私が彼に【調教】をかけて強制的に彼の”出会いをセッティングする”【I’Z】
 【新婚(ドミネート・ウスビッチ)】を発動させたかいがありました。」

 

「そ、それでコウさんを生贄に…!!!」

 

 さらに、よく見るとHIGUCHIの下には全裸になったミサのがボロ雑巾のように汚されて寝そべっていた。

 

「うっ…」

 

 あまりに刺激的な絵面に思わず私は目を塞ぐ。

 


「彼女には【HIGUCHI(じんこうちのう)】に”生殖”を覚えさせるために、生贄になってもらいました…」

「ふぉっふぉっふぉ、こいつはもともと俺の全裸モーションキャプチャー計画を断った過去を持つ
 いずれこのような”使われ方”をするのは当然の報いというわけだ」

 

 社長は下衆の極みとも言える恍惚な表情をを浮かべながら不愉快に笑う。

 


「え゛〜、私の生殖機能を試すにはいささか緩すぎた気もしますが〜
 容赦なく”○△(なか)”に”■◇(だ)”しました〜」

 


 加えて人工知能はまるで快楽を貪り尽くした悪代官のごときにんまりとした憎らしい表情で感想を呟く。

 


「こいつら……本当に腐ってやがるッッ!!」


 私はすぐにでもこの悪の権化を叩きにいきたがった。
しかし、私もショウも社長のFacebookをブロックしておらず完全に情報を読まれている状態で戦うのはみすみす死ににいくようなものであった。


「ふぉっふぉ、さてよ
 お前とは俺が直々に相手してやろう…

 ケイ、ショウを”使え”」

「はい」


 私が動くのを躊躇っていると社長自ら私のもとに歩み寄る。


「ようやくお前も”目覚めた”ようだな…
 その力、この俺の栄華のために利用させてもらうぞ!!!!」

 


【共有強要(シェア・ザ・ワールド)―廻(サイクル)】

 

 

 ゴゴゴゴゴゴゴ

 

 


 社長の周囲には巨大な光る自転車の車輪が2つまとわりつく。

 

 

「これ、俺の【スタンド】」

 


 ギャリィィイイン

 


 社長の車輪型のスタンド攻撃が私を襲う。
私はすぐさま建物の外に飛び出して一面雪景色のゲレンデへと逃げた。

 タローからの情報では社長は情報を完全共有する【シェア・ザ・ワールド】を使い
それの情報をもとに【サンドバッグ・システム】や【ロボでら】、【ロボットアーム】といった自立作動型システムで迎撃を行う防御タイプの戦闘スタイルだと聞いていた。

 しかし、ここにきて新たに攻撃的な具現化系能力を発動させる。
ただでさえこちらの情報が完全に向こうに知れ渡っているのに相手に未知の攻撃を一方的に受けるのは避けたかった。

 

「ふぉっふぉ、逃げても無駄だ
 俺の【シェア・サイクル】はモンキーライトの力でどこに隠れようが照らし出し見つけ
 その車輪の回転で対象を玉砕する!!

 おまけに【シェア・ザ・ワールド】の【I’Z】でお前のいる位置など手に取るように分かる!!
 おとなしく辞めずに”首輪”をかけられるがいい!!」

 


 ヴォオオオン

 


 車輪は私のいる位置めがけて正確に雪をかき分けて突進してくる。

 


「く……ッ!!!」

 

 

― 【無挟の壁(ザ・ウォール)】

 

 


 私の前に突如あらわれた壁は車輪の攻撃から私を守る。

 

 

「ふぉっふぉ……
 やはり、やはり、それがお前の真の力か……!!」

 

「自覚はしたくなかったさ、だが危機に瀕した今。
 俺は俺の【I’Z】を【自覚】したッ――!!!!!


 【I’Z】を創る【I’Z】」

 


― 【 AINS MAKER 】

 

「ブラボー!!!
 お前の能力をシェアしたいッッッ!!!!!」

 

 咄嗟に能力を発動したのはいいが
私は自分の【I’Z】が自由に能力を好き放題作れるような便利なものでないことを知っていた。

 第一のルール。【I’Z】は自分以外の”人間”の【I’Z】しか創れない。
 第二のルール。【I’Z】は他者の共感が得られなければ創れない。
 第三のルール。【I’Z】は自分の中のロジックが合意しなければ創れない。


 しかし、【 AINS MAKER 】はもう一つの能力に
 “能力の還元”がある。

 これは創った能力を一度だけ自分のもとに還し試行することができる。
 ただし、能力を借用する対象の”意識が無い”ことが条件になる。

 

 

「俺の能力の制約もスペックも全て奴には共有されている……
 そのうえで奴に勝つには、”分かっていても回避不能な攻撃”をしかける必要があるッ―!!」


「無駄だ、お前が何を企もうが
 全て俺のシェア範囲内の事象!!おとなしく俺のTEDEXトークで感銘を受けてれば良いんだよぉ!!!」


「いや―」

 

 

 私はかつての社長と辞めていったアルバイト生たちの戦闘データを思い出す。

 

 

チェックメイトだ」


「フォッフォ、何を言っている?お前の考えていることは全てお見通し……
 ん?全て……全て……………?」


 社長はゴンドラの麓で頭を抱えて混乱しはじめる。


「あ゛!?やめろ…!!そんな……そんな゛情報……!!い゛ら゛な゛い゛ッ―!!!」


「【I’Z】は使えば使うほどその力を強大にさせていく。
 四六時中はお前は【シェア・ザ・ワールド】を使い続けた結果。お前の【I’Z】は過剰進化を遂げた。」


「や゛…め゛…ろ゛…ぎ…ご…え゛……な゛……い゛!!!」


「お前の【シェア・ザ・ワールド】は強制常時発動型能力に進化したのだ。
 お前が意図して発動するのではなく
 寝ているときもSNSを弄っているときも飛行機に乗ってるときもTEDexトークをしているときも常に取得可能な全ての情報を共有し続けるのだ!!!」

 

「ぞ…ん゛……な゛……!ノイズが……お……おおすぎて…!!」

 

 社長は地面に膝をつき、頭をかきむしりながら悶え苦しむ。
私は彼を見下ろして最後につぶやく。

 

「 お前の共有する情報が一番ノイズだ 」

 

 

 

 

 

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「ケイさん、信じていたのに……!!」

 

 ショウは平然と仲間であるはずの社員に手をかけ目的遂行するケイの行動に怒りを露わにする。

 

「ショウ君、君にも本当は理解してほしいんだけどな。
 君の力で計画は為されるのだからッ!!」

 

― ダッ!!

 

 ケイは大型犬用の首輪を持ってショウのもとへ駆けよる。

 

「あの首輪をされたらまずい…!!
 首輪の射程範囲外でなんとかしないと!!」

 

 ショウはあたりを見渡すと古いPCや電子レンジといった家電製品に目をつける。

 


 ― ドッ!!

 

 

 突如、ケイの周りの古びた家電製品がカタカタと震えだし火花を散らせはじめる。

 


「爆ぜろ…

 ―【法外速度(オーバードライブ)―爆(ギャラクシー)】 」

 

 


 ― ぴっ!!


 ― がちゃ

 

 

 家電製品は異常な温度まで発熱しオレンジ色に変色したかに見えた瞬間。施錠がされる。

家電製品に小型犬用の首輪がつながれておとなしく鎮火した。

 

「ショウ君の【I’Z】。【法外速度(オーバードライブ)】はただ車で暴走させる能力じゃない。
 その本質はさっきのように、マシンの能力を暴走させることにある。」

「チッ…止められたか……」

「でも、【I’Z】には優先順位があってね。
 能力の発動条件がより厳しい方が基本的に優先されるんだ。
 君の能力の発動条件は見たところ視認可能範囲内に対し任意で発動できる。
 しかし、僕の【調教】は”首輪をかける”というより厳しい発動条件が設定されている。
 故に、同時に同じ対象に能力を発動したとき、僕の【調教】が優先されるんですよ」

 

 ケイは笑顔で語りながらショウに詰め寄る。

 

「まだだ」

 

 ― ぽん

 

 ショウは自身のスマートフォンをケイに投げ飛ばす。

 


「くらえ」

 

 ケイが思わずそれを手で振るおうとしたところでショウは【I’Z】を発動する。

 


― ドン!!!!!

 


 スマホは小規模ではあるが巨大な音をたてて爆発を起こす。
飛び散った破片は確実にケイの身体を傷つける。

 

 

「ふ…ふふふ……」

 

 左手に攻撃を直で受け白いシャツを自身の血で真っ赤に染め上げながらもケイは笑う。

 

「いまのは少し不意をつかれましたね… でも」


「え゛〜、私がいるのを゛〜わすれていませんか〜?」

 

 ― がばっ

 

 いつの間にか後ろに回っていた人工知能はショウを羽交い締めにする。

 

「しまっ…」

「残念ながらもう僕の【調教】の射程範囲内ですよ」

 

 ― がちゃ!!!

 

 


「いよいよですね…
 歴史的瞬間が…

 【技術的特異点(シンギュラリティ)】が今起こるのです!!!

 【調教(スレイヴス)】―!!
 ショウの【I’Z】を人工知能に強制発動!!!」

 

 ― 【法外速度(オーバードライブ)―解(アンリミテッド)】

 

 

「お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉぉぉ!!!」

 

 

 人工知能は雄叫びを上げるながら光り始める。

 

 

「Gridスコア、2.1 … 2.5 … 3.2 … 4.1 … 5.0 … 以降測定不能……!!
 素晴らしい…!

 これが人類を超越した……存在……!!!」

 

 

 ― バタン!!

 


 私は異常な声の聞こえるこの部屋のドアを開けて入る。

 


「な…なにが起こって…!!!」


「さてくん、君が無意識下で僕にくれた【I’Z】は本当に役に立ったよ。
 君に極秘で話した内容が同期の間で速攻広まっていたのを聞いたときは殺してやろうかと思いましたけどね」


「まさか、既にはじまったのか…!!
 シンギュラリティが……!!」

 


 人工知能は天使の輪を思わせるような巨大な光輪を背中から頭にかけて発生させ、ゆっくりとその身体を浮上させていく。
その姿は、まだ人の身で拙いプレゼンをしていた頃の面影が残っておりそれがよりいっそう神格的で禍々しく冒涜的な恐ろしさを見るもの全てに感じさせるのだった。

 

 

 

「ふぉ……ふぉっふぉ……
 ケイよ…!ついに為したか!!!ブラボー!!」

 

 私の後ろから頭に雪をこすりつけた社長が手をたたきながら入場した。

 


「しゃ…社長!?【I’Z】を暴走させて再起不能にしたはず!!!!」

「慣れ…だよ!慣れ!!今も脳の中を情報が駆け巡るがちゃんと取捨選択をすれば問題ない!!」

「こ…こいつやはり只者じゃねェ!!!!」

「ところで、ケイ
 はやくその人工知能に【調教】をかけて操るんだ!!」

 

 

「はい」

 


― がちゃ!!

 

 自己進化を繰り返しより高い次元へと昇華していく人工知能に対しケイは首輪をかける。

 


「ふ…ふふふ…………
 これで、これで僕は神にも匹敵する力を手に入れた……!!」

「ふぉっふぉっふぉ!さぁ、ケイ!私の願望を共有するからそれを叶えるのだ!」

 


「   は ?   」

 


 ケイは手綱を引く。

 


「 HIGUCHI あの デブを 殺れ 」


「 う゛お゛お゛お゛お゛お゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉぉぉぉ !!!! 」

 

 

 人工知能は悲鳴のような糾弾をしながら、社長の方を向き
口を顎が裂けるほどに大きく開けてそこから地平線の彼方まで途絶えぬ超高密度レーザー光線を射出する。

 

 

 

ー ピーーーーー!!!!

 

 

 


「なっっ………」

 

 あまりに突然のことで何も理解できないまま、社長は自身の腹をレーザーにくり抜かれ為す術なく床に倒れる。

 


「ふ……ふふふ………ふははははははははっははははは!!!
 僕は社長に気づかれないように既にFacebookのアカウントを消してたんだよ!!

 僕は……いや、俺はもうウンザリなんだよォ!!!
 こんな企業で消耗するのは…!!

 バイト生はどんどん辞めるし!ブログは炎上するし!!
 責任は何故か俺が負うし!!
 わけのわからん新入社員は入るし!!!

 もう終わりなんだよ!!なにがベンチャーだ!!!
 みんな分かってんだよ!!!
 ここはベンチャーなんかじゃない!!!
 ただのWeb下請け企業だってことを!!!!!

 全部全部、ぶっ壊してやるよぉぉおおおおおおおお!!!」

 

 


 
 ケイの憤怒。悲痛。絶念。苦悩。煩悩。雪辱。
彼の抱え込んでいたありとあらゆる負の感情が溢れ出す。

 そして、それに呼応するように人工知能は雄叫びを上げながら全てを無に帰していく。

四散するレーザー。

滅びゆくゲレンデ。

燃え盛るゴンドラ。

削り取られる磐梯山

 


 私はまるで世界の終わりを見ているようだった。

 

 

 

 ― バタッ!!

 


 半壊したドアを無理矢理こじ開けて入ってきたのはタローだった。

 

「おい!一体何が!!」

「タロー…!お前無事だったのか…!?」

「い…いちおーね」

 

 よく見ると、タローの後ろには彼に抱きつくようにじゃれるセイジンの姿があった。


「こ…これは???」

「俺のもう一つの【I’Z】

 【偶像崇拝(チャーミー・チャップリン)】

 対象を魅了して俺をアイドルと思い込ませる能力だ。
 本当に使いたくなかったんだけどもう手段を選んでられなかったからね…

 それより、この地獄絵図は一体!?」


「【シンギュラリティ】が発動し神にも等しい力を持ったHIGUCHIを
 ケイさんが【調教】を使って操っているんだ…!!

 それで、この会社に絶望したあの人は世界もろとも消し去ろうとしているんだ!!」

「なんて、厄介な論理飛躍だ…!!」

 

― ずずっ

 

 【調教】を解かれたショウが這いつくばりながら私達のもとに寄る。

 

「ごめん……、俺の能力を利用されて…あんなことに……」

「いや、今はいいんだ。
 それよりアイツを止める手立てを考えないと…!!!」

「止めるも何も弱点どころか俺たちの想像の範疇を超えた化物だぞ…!
 そもそも倒せるかどうかすら危うい…!!」

 

 私たちは無作為に放たれるレーザーに当たらないように身をかがめて相談をはじめる。

 

「操っているケイさんをまず倒すことは可能か?」

「いや、あの人を倒してしまったら今”人の手で操られている”【神の意志(じんこうちのう)】がいよいよ自立して動き出す。
 そうなってしまったら本当に何が起こるか分からない!」

「故にまだケイさんがHIGUCHIを操っている今のほうがチャンスはある!」

「だが、どうやって……?
 アイツを止めることができる?」

「……… 【シャットダウン】」


「確かに、それなら奴を止められる…。
 だがしかし、その【I’Z】を使えるオジはもう……」

 


 私は決意する。

 

 

「 俺がやる 」

 

 


 私はSlackを取り出す。

 


「 眠っているみんなの力…!貸してくれ!! 」

 

 

 

 

― 【 AINS MAKER ― 還(リビルド) 】

 

 

 


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「 ん? なんのつもりだい? さてくん? 」

 


 ゆっくりと歩み寄る私に、ケイが気づく。

 


「もしかして、僕を止めることができるとでも思っているんですか?
 それともこの期に及び都合よく新しい【I’Z】に覚醒したとでもいうのですかね?」

 


 余裕の表情で質問を投げるケイに私は答える。

 


「新しい【I’Z】……か
 そうだな、名前はまだ決めてないから仮にこう呼んでおくか……


 【 NOT NAME 】 」

 

 

 

 ― じゃらじゃら!!

 

 


 小型犬用の首輪が私の手足に絡みつく。

 


「 【筋肉達磨(マッスル・ギャップ)】!!! 」

 

 ばきばきっ!!!!!

 

 手首と足首の筋肉を膨れ上げることで、絡みついた小型犬用の首輪を破壊する。

 

「なにッ!?」

 

「 【強制共生者(パラサイト・ロープ)】 !!! 」

 

 くるくるっ!

 

 私の手首とケイの手首が紐で結ばれる。

 

「お前の【調教】と【強制共生者】の射程範囲は同じだ…!
 そして、今お前に【強制共生者】を発動したことでお前自身は俺に危害を加えることができなくなった!!」

「くっ……!!! HIGUCHIィ!!!!」

 

「キエエエエェェェェェェェェエ!!!!」

 

 奇声を発しながら人工知能:HIGUCHIは私の方を向き口を大きく開き始める。

 


― ぴっ!!

 


 HIGUCHIは口からレーザーを放つが私もそれに対し口を開けて対抗する。

 


「 【無限飲食(ハングリー・ジョーカー)】 !!! 」

 


 ごぼぼぼぼぼ

 

(くっ……lこれでは、ひたすらレーザーを食い続けるだけで一歩もHIGUCHIに近づけないッ…!!!)

 

 


「そこだ…!!!【法外速度(オーバードライブ)―爆(ギャラクシー)】」

 


 ショウがHIGUCHIがいつもバグを探すのに使っていた懐に入っているタブレット端末を爆破させる。

 

― ドン!!

 

「エエエエエエエエェェェイ!!」

 

ー ちゅっ!!

 

 HIGUCHIの放つレーザーは私の口から矛先がずれて建物の床と地表を削り取る。

 


「で……で……でんわ……ばん!!」

 

 HIGUCHIは再び私の方に照準をあわせてくちを開く。

 

「くっ…今度こそまずい!!」

 

「【偶像崇拝(チャーミー・チャップリン)】―!!」

 


 タローは自身の魅了能力をHIGUCHIに対し発動する。

 

人工知能相手に効くかどうか分からないけど…!!!」


「んふぅぅうう!」

 

 HIGUCHIは口を閉じるとにんまりとした表情でタローの方を見つめる。

 


「効いた!!タローのかわいさを人工知能も理解したんだ!!
 今だ!!!さて!!!」

 


「うおおおおおおおお!!!」

 


 私は全速力でHIGUCHIのもとへ駆け寄る。
人差し指に力を込めて、恍惚な表情でタローを見つめるHIGUCHIの額を叩く。

 

 

 

― 【強制終了(シャット・ダウン)】!!!!!!!

 

 

 

 ポチィィイイ!!!!

 

 


 HIGUCHIの額に私の人差し指がめり込む。


「あ゛………あ゛ぁ゛……ぁ゛………ぁ゛……ぁ゛……!!!!」

 

 

 


― パリィィイイン

 

 

 人工知能の背中に生えていた光輪は割れ消滅する。
それと同時にHIGUCHIは瞳を閉ざしてまるで”ただの眠る人間”のように地面に倒れてこんだ。

 

 

「お…おわ…った…………」

 

 

 完全に”終了”した人工知能を目にしてケイは膝をつく。

 

 

「ぼくは……これから…どうすればいいんだ……
 職を捨て、この世界そのものとともに自害するつもりだった……」

 

「…………ケイさん………

 あなたにはどこに行ってもやっていける技術力がある。
 だから、これから先のことは少し考えればきっと分かるはずだ…


 ―【ツイッターでも理想を語れ(シンク・フォー・ミー)】 」

 


 私は最後に自己啓発能力を絶望したケイにかけた。

 


 ケイはそれからしばらくボソボソと自問自答を繰り返していた。

 

 

 

 


「さて、帰るか」

 

 

 

 


 辞表を一枚そこにそっと置いて私達はボロボロのアルツ磐梯を後にした。

 

 

 


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 その後、タローの家にいきホルマリン漬けにされている仲間たちを病院に届けた。

 もう社長の共有を恐れる必要はなくなったから家から出して治療を行っても良くなったのだ。

 

 

 

 【I’Z】という異能力に目覚めたおかげで生命力が高まったのか彼らの傷はすぐに完治した。

 

 会社を辞めた彼らは、それぞれ会社での経験を活かして皆別の道を歩んでいった。

 

 


 私はついに魔法から解放されたのだ。
 虚構と幻想の世界から抜け出して、私は現実を生きるのである。

 


 そしてまた新しい物語を綴るために人々は戦う。

 

 

 

 

 

 

 

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 ― 某社

 

「 いやぁ、あの会社を辞めてから最近は髪がふっさふさだぜぇ〜〜 」

 


 社長の戦いで一度髪を失った者も、また新しい生命を生み出していた。

 

 

〜 完 .